2 留置権

1 留置権の意義

他人の物を占有する者が、その物について生じた債権の弁済を受けるまで物を留置することができる権利を留置権という。
手元に物を占有しておくことで、間接的に債務者の債務の履行を強制することができる。
  制度趣旨は、当事者間の公平をはかることである。


留置権の位置付け
法定担保物権である。つまり、当事者の設定行為によらず、法律上当然に認められる。
  ⇔約定担保物権

留置権の性質(通有性)
付 従 性債権が消滅すれば、留置権も消滅する
随 伴 性債権が他人に移転すれば、留置権も債権とともに移転する
不可分性債権全部の弁済を受けるまで、留置権は目的物の上に存続する
留置物の一部を引渡した場合は、特段の事情がない限り、債権全部の弁済を受けるまで、 留置物の残部に対して留置権を行使できる(H3.7.16)
物上代位性は認められない。
――――図解・判例・条文等――――

295条(留置権の内容)
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、 その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。







296条(留置権の不可分性)
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。


2 留置権の成立要件

2-1 債権と物に牽連性があること

295条1項本文にもあるように、留置権は、占有している物に関して生じた債権を担保する権利である。よって、債権と 占有物とに関係(牽連性)がなければ留置権は成立しない。

【具体的検討】…物の引渡義務と以下の債権に牽連性はあるか。
牽連性
あり
@占有物に費やした必要費や有益費の償還請求権
A建物買取請求権を行使した場合の建物代金の債権と、土地の引渡し
B建物の売買が取消された場合の売買代金の償還請求権と建物返還請求権


牽連性
なし
@造作買取請求権を行使した場合の造作代金の債権と、建物全体の引渡し(S29.1.14)
 造作代金債権は、造作から生じた債権であり、建物から生じたものではないから
 造作代金と建物の代金は価格の差が大きいため、不公平となる


A不動産の二重売買において第2買主のために所有権移転登記がなされた場合、第1買主からの売買契約不履行に基づく 損害賠償債権と明渡請求(S43.11.21)
 損害賠償請求権と目的不動産の間に牽連性はない

BAからBの所有不動産を譲り受けたCが、Aに対する履行不能を理由とする損害賠償請求をもって、 Bからの引渡請求に対してその不動産を留置した場合(S51.6.17)


2-2 他人の物を占有していること

占有を失えば、当然に留置権は消滅してしまう。⇒他の公示(ex.登記)は不要
占有物は、債務者の所有物である必要はない。


2-3 占有が不法行為によりはじまったものでないこと

占有時には権原があったが、その後債務不履行等などによって契約が解除されて、権原がなくなった場合も、不法行為によって 占有が開始したものと解する(S46.7.16)
よって、賃貸借契約が解除された後も不法占拠を続けた賃借人が、必要費・有益費を支出しても留置権を主張することはできない。



2-4 債権が弁済期にあること

留置権を認める趣旨が、債務の履行(弁済)を間接的に強制することであるから、債権が弁済期になければ、 履行を促す必要がなくなる。
裁判所が、債務者に期限を許与した場合、債権者は留置権を主張できない。期限を許与することで、弁済期が到来していないことになるからである。






【参考】借地借家法33条(造作買取請求権)
建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、 その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合に おける建物の転借人と賃貸人との間について準用する。

【参考】借地借家法13条(建物買取請求権)
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、 借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の 承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、 代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。











196条(占有者による費用の償還請求)
2項 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、 その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。 ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる

3 留置権の効力および消滅

3-1 留置権の効力

留置的効力―あり
債権者が目的物を占有することで、債務者に債務の履行(弁済)を間接的に強制する効力

優先弁済的効力―なし
法的には認められていないが、事実上の優先弁済的効力はある。
 競売の権利もある。

果実収取権;留置物から生じる果実を収取して、自己の被担保債権の弁済にあてることができる。
 被担保債権の弁済にあてるという目的で、果実を収取できる(297条)。


●留置物の保存方法
留置権者は、債務者の物を占有するにあたり、善良なる管理者の注意義務が課せられる(298条1項)。
 違反した場合は、後記のように、留置権の消滅を請求される可能性がある。

また、留置権者は、目的物の保存に必要な範囲で、目的物を使用することができる。

留置権を行使した場合の被担保債権の消滅時効
留置権を行使しても、被担保債権の消滅時効の進行は妨げられない(300条)。
 つまり、消滅時効中断事由の「請求」には当たらないということである。

ただし、裁判上、留置権の抗弁を提出する際、被担保債権の存在を主張し、裁判上の判断の対象となった時は、 催告としての中断の効力は生じる(S38.10.30)
 よって、口頭弁論終結から6ヶ月以内に、中断事由によって消滅時効の進行を妨げる必要がある。


留置権者が費用を支出した場合(299条)
必要費所有者にその償還をさせることができる
有益費価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。
ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。


3-2 留置権の消滅

消滅原因T―留置権者の義務違反による消滅請求
@留置権者が善管注意義務を果たさなかった場合(298条)
A留置権者が、債務者の承諾なしに、留置物を賃貸もしくは担保に供した場合
B留置権者が、留置物の保存に必要な範囲を超えて、債務者の承諾なしに留置物を使用した場合
損害が実際に発生したかどうかは影響しない。
留置権者の意思表示のみで効力が発生する。


消滅原因U―留置権者が留置物の占有を喪失した場合
ただし、債務者の承諾を得てされた賃貸や質入れによる占有の喪失は、留置権の消滅原因とならない(302条)。


消滅原因V―債務者が代担保を提供した場合
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。(301条)。




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