4.動産の物権変動

1 動産物権変動の対抗要件

動産の物権変動の対抗要件は引渡しである。
民法は、引渡しの様態について、以下の4種類を規定している。
登記制度が存在しない理由は、動産は種類・数量が多いので、それぞれ登記簿を作ることは過大な負担となるからである。


1-1 引渡しの様態

1.現実の引渡し
その名のとおり、物の支配を直に移転することである
現実の引渡し以外の3類型は、物の存在場所に変更はないため、観念的引渡しとも呼ばれる


2.簡易の引渡し
これは、既に相手方が物理的に支配している物について、その所有権を移転させたことにするものである。
【判例】病院で療養中の内縁の夫が、同居していた内縁の妻に、所有家屋を贈与する際に、自己の実印と家屋購入時の売買 契約書を、妻に交付した場合、簡易の引渡しがあったと認められる(S39.5.26)


3.占有改定
占有の移転を受ける側が、一度も現実の支配をしないまま、引き渡したことにするものである。
【判例】売渡担保契約がなされ、債務者が引き続き担保物権を占有している場合には、債務者は占有改定により、以後債権者のために占有するものであり、 債権者はこれによって占有権を取得する(S30.6.2)
【判例】集合物の譲渡担保において設定契約における事前の占有改定が認められた(S62.11.10)


4.指図による占有移転
184条のとおり(右記)である。
要件@本人が代理人に、以後第三者のためにその物を占有することを命じること
要件A第三者がこれを承諾すること⇒注;代理人(C)の承諾は不要である


1-2 公示力の弱さを補う制度

@ 取引の安全との調和1(178条の例外)
登記や登録 取引上重要な財産的価値のある動産については、登記や登録が対抗要件となっている
例;道路運送車両法5条(自動車登録ファイル)、船舶、航空機、建設機械等
金銭金銭は、占有を移転すれば所有権も移転する

A 取引の安全との調和2−即時取得制度
第三者を現実に保護しているのは178条ではなく、192条である。
――――図解・判例・条文等――――
178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。





182条1項占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。

182条2項 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。

183条代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

184条代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、 その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。




2 即時取得

2-1 即時取得とは

所有権等の処分権限をもたない動産の占有者を、正当な権利者と信頼して取引をした者が、その動産について、完全な権利を取得することを認める制度を、 即時取得ないし善意取得という。
即時取得によって取得できる権利は、所有権と質権だけである。

公信の原則
登記や引渡しという公示を信頼した者を、公示に対応する権利義務があるかないかを問わずに保護するという考え方を 公信の原則という。動産の即時取得制度は、この原則の現れである。
即時取得が成立する場合、占有者が物を所持していた状態について公信力(第三者の積極的信頼を保護する力)が発生する。
本人に帰責性を要求しない点で、権利外観法理(94条2項類推適用)とは異なる。
192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、 善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

2-2 即時取得の成立要件

【1】動産であること
動産のうち、即時取得の対象とならないもの(ex.登録済みの自動車)
 ●登記・登録が対抗要件とされているもの
 ●金銭
 ●土地に定着している立木(まだ不動産である)、未分離の果実


【2】取引行為の存在
取引行為とは、本来ならば物権の移転を生じる行為である。
   間違って持っていってしまったような場合には、取引行為ではないため、適用はない。

●前主は無権利者でなければならない=当該動産を他人に処分する権限がない

●取引行為の瑕疵は192条によっても治癒されない=無権利者である、という点を除いた他の点で、取引行為は法的に有効でなければならない
当事者の一方が制限行為能力者であったり、錯誤に陥っていた場合には、契約は無効である。
なぜなら、即時取得制度は、無権利ということのみを治癒するものであるから、 それ以外の瑕疵は総則等で処理すべきで、即時取得の問題とすべきでない


【3】前主の占有の信頼
平穏かつ公然、善意・無過失に、占有を始めたことが必要
  平穏⇔競合、公然⇔隠秘

平穏・公然・善意は、186条1項によって保護され、無過失は、188条によって保護される。
占有者の無過失は186条1項によっては推定されないと解されている(S46.11.11)が、 188条を根拠として、取得者の無過失の立証は不必要であるとしている。


【4】占有の取得
占有を取得するとは、引渡しの4つの様態のすべてが当てはまるのか、特に占有改定がこれに含まれるかが問題となる。

判例(否定説)
占有改定を受け者の占有状態はなんら変更しておらず、即時取得を認めることができない。
=即時取得するためには、現実の引渡を受け、かつその段階で善意無過失であることが必要

肯定説
取得者の占有の態様は問題とならず、占有改定による占有取得の場合も即時取得を肯定する。
(理由)即時取得制度の趣旨は前主の占有を信頼した者を保護するものである


折衷説
占有改定が行われれば、不確定的に所有権を取得し、現実の引渡が行われれば、確定的に所有権を取得する
(理由)譲渡担保が二重に設定されている場面で、債権者のどちらが先に譲渡担保を実行し現実の引渡を受けたかで優劣が決するので、 両者を平等に扱うことができ、結論として妥当である。

●否定説との違い
否定説:現実の引渡の段階で善意無過失が必要
二重の譲渡担保が設定されている事例について、実行する段階まで善意無過失を要求されると、 債権者は譲渡担保を設定しにくくなってしまうのでは。
折衷説:占有改定の段階で善意無過失であれば足りる(不確定的に所有権は移転している)
【参考】186条1項
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

【参考】188条
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。。



【S35年2月11日】無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、 一般外上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外見上変更をきたさない いわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らないものといわなければならない。

















2-3 即時取得の例外(盗品・遺失物の特則)

即時取得の対象である動産が、盗品または遺失物であった場合は、2年間回復請求が可能である。
本人の帰責性があまりにも小さいためである。
なお、遺失物については、240条にも定めがある。193条が適用されるのは、240条の手続によらない場合である。

回復されるまでの間の所有権の帰属とは
原所有者帰属説(判例)
2年間経過する前は、原所有者に所有権が帰属し、経過した後は、占有者に所有権が移転する

占有者帰属説(有力説)
善意無過失で占有者が占有した時点で所有権は移転し、返還請求が行われた場合にのみ所有権が復帰する
(理由)占有した時点で即時取得が成立するため、即時取得の効果が広く認められ、取引の安全がより保護される

194条―公の市場等からの盗品等の取得の場合
占有者が、盗品又は遺失物を、競売、公の市場、または商人から、善意で買い受けたときは、 被害者や遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
(制度趣旨)公の市場等で購入した占有者は、それ以外の手段で入手した占有者よりも保護されなければならない

取得者が質屋・古物商の場合;原所有者は、1年に限って代価を代償しないで返還請求が可能
(理由)質屋・古物商は専門的鑑識眼があり、盗品・遺失物については特別の注意を要求しても酷ではない


使用利益の返還について
判例は、原所有者帰属説をとってきたが、平成12年6月27日の判決で、回復請求までの間、目的物の所有権がどちらに帰属していたかを問題にせず、 盗品の被害者からの代価弁償があるまで、物の善意取得者は盗品につき使用収益を行う権利を有するとし、 被害者から善意取得者への使用利益の返還請求を認めなかった。
193条(盗品又は遺失物の回復)
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、 盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

【参考】240条(遺失物の拾得)
遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、 これを拾得した者がその所有権を取得する。






194条
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、 又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、 占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。


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