4.不動産物権変動(1)

1 登記を必要とする物権変動

177条の公示の要請は、契約などの意思表示による物権変動だけでなく、 相続や時効など意思表示によらない物権変動にも及ぶ(判例)。これを「無制限説」といい、原則 的な考え方であるが、例外もある。
以下、個別にみていく。
――――図解・判例・条文等――――
@177条の適用範囲は、意思表示による物権変動に限られない、A177条の法意は、第三者の保護にあり 第三者から見ると意思表示による物権変動も相続のような法律の規定による物権変動も、対抗要件による公示の必要な点で変わりない(M41.12.15)
1-1 契約が取消された場合

契約が、詐欺強迫制限行為能力を理由により取消されると、契約は遡及的に無効だったことになり、契約による物権変動もなかったことになる。 では、このなかったはずの物権変動を前提に取引に入った第三者はどうなるか。177条の問題となるか。

取消し前の第三者
制限行為能力制度を理由に取消した場合→第三者は保護されない
詐欺を理由に取消した場合→第三者が善意であれば保護される(96条3項)
強迫を理由に取消した場合→第三者は保護されない(96条3項の反対解釈)
  詐欺取消しの事例における善意の第三者は、権利保護要件としての登記も不要である(判例)



取消後の第三者

177条説(判例)
Aの詐欺取消によって、単に遡及的に無効になるのではなく、「一度Bに移転した 所有権が取消によってAに復帰する」、と考える(復帰的物権変動)。
この考え方を基礎に、取消した者Aと、第三者Cは対抗関係に立つとして、登記を備えたほうが勝つとする。
(理由)登記を懈怠した者は保護に値しない。
(批判)第三者は悪意であっても登記を備えれば勝つことになってしまう


94条2項類推適用説
取消権者が、契約が取消しうるということに気がついてから94条2項を類推適用する。
  (理由)取消権者が登記を放置したことが、虚偽の外観を作り出した帰責性となる。




1-2 契約が解除された場合

契約が解除された場合、解除前の取引を前提に取引に入った第三者は、対抗要件としての登記さえあれば保護されるとするのが判例である。
解除前の第三者545条1項但書きによって保護される(ただし、登記が必要である)
解除後の第三者解除した者と対抗関係に立つので、登記を備えれば勝つ
解除前の第三者が登記を要求されることについて、判例は対抗要件としているが、学説は権利保護要件と考えている。
*取消前の第三者*
Aが自己所有の土地をBに売り渡し、Bはこれを第三者のCに譲渡した。そしてCは登記を備えた。
Aは未成年者であったため、A・B間の売買は取消された。
 ● Aは、登記なくして、不動産の返還をCに主張できる
*取消後の第三者*
Aが自己所有の土地をBに売り渡し、Bは登記を備えた。 しかし、Aは未成年者だったため、A・B間の売買は取消された。
Aが登記を戻さずにいたら、Bが土地をCに売り渡した

Aは、登記なくして、不動産の返還をCに主張できるか?⇒ 判例の見解


1-3 時効による取得の場合

時効取得者は、取得された元所有者には登記なくして所有権を主張できる。 問題は、時効完成前後に、元所有者から所有権を取得した第三者との関係である。


時効完成前の第三者
時効完成前の第三者に対しては、時効取得者は、登記なくして対抗できる(判例)。
時効完成前の第三者は、物権変動の当事者と似たような関係になるため、登記は不要であるとされる


時効完成後の第三者

判例
登記名義人から、時効取得者と、譲受人に二重譲渡があったのと同視できるから、AとCは対抗関係に立つ。よって、先に登記を備えたほうが勝つ。
(批判)
@長期占有者の方が保護されにくくなる=時効の完成後も長期間に渡って占有し続けたとしても、 登記名義人が譲渡して、譲受人が登記を備えてしまえば、負けてしまう
A時効取得者は、時効が完成したことを知らない方が多いのであり、時効完成後に登記をしなかったことを帰責事由として 対抗関係に立たせるのは酷である

この判例の考え方には「時効の起算点は動かすことはできない」という前提がある。
●「時効の起算点は動かすことはできない」理由
時効取得者は、時効完成「前」であれば、登記なく第三者に対抗できるのに対し、 時効完成「後」であれば、対抗要件に登記を要求されるのであり、 時効取得者は、譲渡があったのが時効完成「前」になるように、起算点をなるべく遅らせ、第三者に登記なくして対抗しようとするおそれがある。

なお、時効完成後に第三者Bが登記を備えたために、時効取得者Aが所有権を主張することができなくなった場合、その後 さらに時効取得に必要な期間占有し続けることで、新たな時効が完成した場合、時効取得者Aは、第三者Bに登記なくして対抗できる(S36.7.20)


学説
占有を重視し、登記を不要とする学説や、取引の安全を重視し、登記に時効中断的な効力を認めようとする学説もあるが、それぞれ批判もある

*時効完成前の第三者*
B名義の土地を、善意・無過失のAが占有していた。Bは土地をCに譲渡し、Cは登記を備えた。
その後、取得時効の要件を満たしたAが、C所有の土地を取得した。
【判例】占有者Aが登記なくして、新所有者Cに対抗できる
*時効完成後の第三者*
B名義の土地を、善意・無過失のAが占有していた。Bは土地をCに譲渡し、Cは登記を備えた。
その後、取得時効の要件を満たしたAが、C所有の土地を取得した。
【判例】先に登記を備えたほうが勝つ

1-4 相続の場合

1.被相続人からの譲受人と相続人(判例)
相続人は、被相続人の権利をそのまま承継するのであり、被相続人からの譲受人とは対抗関係に立たない。 よって、譲受人は、相続人に登記なくして権利を主張できる。
相続人は、被相続人が有していた「譲受人に登記を移転する義務」も承継するため、譲受人は、相続人に 移転登記を請求することができる。そして相続人は、これを拒むことができない。


2.相続による権利取得と第三者(判例)
相続により不動産を取得した場合、その権利の取得(法定相続分)を第三者に対抗するためには、登記は不要である。

左の事例では、CBが共同相続した時点で、共有登記をしなかったことを非難できる可能性はあるが、 遺産分割協議により異なる相続分となった場合、再び登記をしなくてはならないし、実際共有登記がされることが少ない。 よって、それは帰責事由にならないと評価される

登記に公信力がない以上、それ(Bが単独相続したことを示す登記)を信頼したDは、たとえ登記があっても、Cの持分 については無権利者Bからの取得であり、Cに対抗することができない(S38.2.22)。


3.相続放棄と第三者(判例)
相続により不動産を取得した者が相続放棄をした場合、その相続放棄を第三者に対抗するためには、登記は不要である。

理由
@相続放棄には遡及効があり、第三者を保護する旨の規定もない
A相続放棄が可能な期間は3ヶ月と制限されており、 また、相続放棄の有無を家庭裁判所で確認することもできる
B相続人の債権者が、被相続人の財産から弁済を受けるのは不当である

関連【参考/民法2物権(有斐閣アルマ)】
@差押えが相続放棄前であっても、結論は変わらない
ABが自己の持分をDに譲渡した後に相続放棄をした場合は、譲渡は相続財産の処分であり 単純承認と見なされるので、相続放棄ができなくなる
B上記Aについて、相続放棄後に譲渡したとしても、同様である


4.遺産分割と第三者(判例)

遺産分割前
909条但書きにより、遺産分割の遡及効は制限され、DはCの持分を適法に取得する 原則として、遺産分割には遡及効がある。つまり、遺産分割によって、 Bははじめから持分だった2分の1についても無権利者だったことになる。909条但書きは、その遡及効を制限するものである。


遺産分割後
相続人と、譲受人は対抗関係にたち、先に登記を備えた方が勝つ(S46.1.26)。

理由
@遺産分割の遡及効は、第三者との関係において、新たな物権変動と同視できる(=分割時に新たな変更を生じる)
A相続放棄と異なり、遺産分割には期間制限があるわけでもなく、家庭裁判所で確認することができるわけでもない。よって、 第三者は相続人内部の事情を知ることができず、外観を保護する必要が高くなる




5.遺贈と相続人との関係
受遺者(遺言によって財産を譲り受けた者)は、登記なくして相続人にその相続財産の所有権を対抗できる 相続人は、被相続人の包括承継人であるので、被相続人と一体として考える
Aが死亡し、Aの土地を、BとCが相続した(共有登記なし)
Bは、遺産分割協議が整わないうちに、Bが土地を単独で相続した旨の 登記をして、土地を第三者Dに転売した。
結論
Aが死亡し、Aの土地を、BとCが相続した(共有登記なし)
Bが相続放棄をしたが、登記はしてなかった。
事情を知らないBの債権者が、Bの(相続放棄前の)法定相続分を差押えた。
遺産分割「前」
AをB・Cが共同相続し、遺産分割協議が整わないうちにBが自己の法定相続分をDに譲渡した。 後に、遺産分割協議によってCが土地を単独相続することが決まった。
【参考】909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
遺産分割「後」
AをB・Cが共同相続し、遺産分割協議によりCが単独相続することが決まった。しかし、後にBは自己の法定相続分を Dに譲渡した。


1-5 その他

1.公売・公用収用の登記
公売に基づく物権変動を対抗するのに登記が必要である(T8.6.23)
国家が関与するという特殊性はあるが、取引の安全の見地から登記を要求する

2.処分の制限と登記
共有物分割禁止などにより不動産物権の処分を制限された場合、この制限は177条の「変更」にあたるため、 登記をしなければ第三者に対抗できない
遺言執行者がいる場合に、相続人がした相続財産の処分についての処分制限は、第三者に対抗できる(S62.4.23)

3.権利の消滅と登記
権利が消滅した場合も、原則、登記をしなければ第三者に対抗できない
ただし、抵当権の被担保債権が消滅下場合は、抹消登記がなくても抵当権の消滅を第三者に対抗できる
※参考/試験対策シリーズ(弘文堂)







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