2.契約による物権変動

1 意思主義

1-2 意思主義と形式主義

たとえば不動産の売買契約のような場合、不動産の所有権はいつ移転するだろうか。

意思主義
契約による物権変動の効力は、意思主義によってのみ生じるとする考え方。日本の民法はこれ。
当事者の意思を尊重した考え方


形式主義
当事者の意思表示に加え、 物権変動の効力が生じるためには、当事者の意思表示に加え、登記や引渡しなどの権利状態の形式を必要とする考え方。
第三者から見た外形の状態を重視した考え方(ドイツ民法)



1-1 物権行為と債権行為

民法560条には、「他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」とある。 これによると、物権変動には2つの行為が含まれていると解することができる。
物権行為;物権の変動をもたらす処分行為
債権行為;権利の変動をもたらす債務を負担する行為


物権行為の独自性否定説(判例・通説)
物権行為に独自性はない。よって、売買契約の締結によって、所有権も移転する。つまり、所有権のみを移転させる物権行為は不要であるとする。
ただし、物権契約の独自性を排除するのではない。抵当権の設定契約のような物権契約もあるし、また、当事者の特約によって 物権契約をすることも可能である。この場合、以下の「有因・無因」の問題も生じる。


物権行為の独自性肯定説
売買契約のような債権契約について、所有権の移転などの物権変動を発生させるには 他に物権行為を常に必要とする。この物権行為というのは、登記や引渡しがあったときに行われると解されるので、 結果的に形式主義と似た結果になる

では、債権行為と物権行為の関係はどうか。

有因の関係とする考え方
債権行為と物権行為は関係があり、債権行為(売買契約等)が無効であると、 物権行為(所有権の移転)もはじめからなかったことになる

無因の関係とする考え方
債権行為の影響を物権行為も受ける。 よって、債権行為(売買契約)が無効であっても、物権行為(所有権移転)には影響はない。
売主が買主の所有物を取り戻すには、別途、不当利得返還請求の手続によらなければならない。
――――図解・判例・条文等――――
176条(物権の設定及び移転)
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。






*物権行為と債権行為は区別できるか*
他人物売買(債権的には有効)
他人物売買の効力(物権的には無効)
    =売主に物権の取得・移転義務の発生)
債権行為と物権行為は区別できるのでは…?


物権変動の時期

契約時移転説(判例・通説)
原則として、契約の時点で物権変動は生じるとする。例外は以下の場合である。
@当事者間で特約があった場合は、特約の内容に委ねられる(S38.5.31)
A法律に規定があった場合(たとえば農地の売買では農地法の許可が必要である)は、法定事由をクリアしたときに物権変動は生じる(S61.3.17)
B他人物売買の場合は、他人物の売主が真の権利者から所有権を取得したときに、買主に所有権が移転する(S40.11.19)
C不特定物売買の場合は、売買の目的物が特定したときに所有権は移転する(S35.6.24)
この説は、意思主義の原則を忠実に適用している


近時の有力説
代金の支払時、あるいは登記や引渡しの時点で物権変動は生じるとする。根拠は以下のように分かれる
●物権行為の独自性肯定説から→民法176条の「意思表示」とは、物権移転を目的とする特別の意思表示のことであり、この「物権的」意思表示は 外形行為(登記や代金の支払など)の時点でなされたものと考えられる
●物権行為の独自性否定説から→売買契約は有償であることに着目し、代金支払と所有権移転が同時履行に立つべきであるとする(有償性説)


段階的所有権移転説(有力説)
所有権の移転時期を特定するのは不可能かつ不必要であるとする。危険負担の移転時期や、果実収取権の移転時期など具体的な規定によって 判断される。
原   則;176条に従い、契約時である
危険負担;534条以下の規定に従う。所有権の移転時期の問題ではない
果実収取;577条に従い、引渡しの時から買主は果実を収取する
二重譲渡;177条に従い、先に対抗要件を備えたほうが所有権を取得する
対第三者;不法行為に基づく損害賠償請求権や、物権的請求権を行使しうる者については批判の余地がある



2 公示の原則・公信の原則

2-1 公示の原則・公信の原則とは

日本の民法は意思主義を採用しているため、意思表示によって生じた物権変動を第三者に対抗 するためには、不動産の場合には登記、動産の場合には引渡し を備えなければ、第三者に対抗できない。この考え方を公示の原則という。「物権の性質」参照

つまり、登記や引渡しは対抗要件ということになる。

これに対し、登記や引渡しという公示を信頼した者を保護する公信の原則という考え方がある。 これは、公示に対応する権利義務があるかないかを問わない。
「不動産の物権変動」「動産の物権変動」参照


2-2 対抗要件主義

売主Aが、自己所有の不動産をBに売り渡した後、Cにも売り渡した場合、どちらがAの不動産を手にするか。BとCの関係を 対抗関係といい、この事例は典型的な対抗問題である。
この第三者に対抗するための要件を対抗要件というが、 不動産の物権変動の対抗要件は登記である。 ※対抗;第三者に主張できること
立法趣旨;物権変動を登記できる立場にある者が、それを懈怠していた場合は、保護する必要がない

つまり売買の前後、悪意・善意の様態問わず、登記を得た者が不動産の権利者となる。


2-3 176条と177条の関係

176条は、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」としてる。 これと177条の関係が、二重譲渡の場面で問題となる。

不完全物権変動説
登記がなくても物権変動は生じるが、それは不完全であり、登記を備えることで、完全な物権変動となる。
(批判)意思主義を前提とする民法で、完全な物権変動のためには登記が必要であるとするのはおかしい

法定制度説
176条は二重譲渡の成立の可能性を前提にしつつ、177条は登記が対抗要件であると定めたにすぎないとする。

公信力説
公示(登記)に対応する権利義務関係があるかないかにかかわらず、外観を信頼した者を保護しようとする
(批判)日本の民法では、登記に公信力はないとしている

177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。







【具体例】 売主と第1買主の間で最初に売買契約が成立したとき、176条によれば、その意思表示の瞬間に物権(所有権)は移転しているはずである。 その後に、売主が第2買主と売買契約を成立させたとしても、売主にはもう不動産の所有権はないので、 第2買主は、無権利者から不動産を買い取る(他人物売買)ことになるのではないか。


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