2.代理権

1 代理権の発生原因と範囲

代理人の行為の効果が本人に帰属するための要件として、まず、代理人にその行為に対応する「代理権」があるということが必要になる。

1-1 任意代理

本人の委任による代理の場合、代理権は、本人の代理権授与の意思表示授権行為)に基づき、代理人に発生する。 代理権授与の方式は問わない。明示または黙示でもよい。
委任状は、代理権の証拠資料に過ぎない。判例も、 委任状の日付が現に委任行為がされた日と一致しなくても委任行為が無効となるわけではないとする。

代理権授与の法的性質
単独行為説
授権行為は、本人による単独行為であり、代理人の承諾は不要である。
(根拠)@民法は代理人の能力は不要としている。A代理権授与により代理人に不利益は生じない。

無名契約説
授権行為は、当事者(本人と代理人)の合意に基づいてされる、委任に類似した無名契約である。
(根拠)代理人の承諾なく代理権が発生するのは不自然ではないか、という 単独行為説への批判

内部契約(事務処理契約)説
内部契約(委任等)の事務処理契約から直接、代理権は発生する。
(根拠)代理権授与行為に独自性を承認すべき必要性はない。



授権行為に瑕疵があり、本人が内部契約を取消した場合
これについては、代理権授与の法的性質での学説にかかわらず、代理権は遡及的に消滅するとされ、 遡及的に無権代理行為となる。第三者も保護されない。

理由付け
【単独行為説・無名契約説から】 (根拠)内部契約が遡及的に消滅する以上、それに密接に関係する授権行為も遡及的に消滅する。
【内部契約説から】(根拠)代理権は内部契約から直接発生するものであり、当然である。
――――図解・判例・条文等――――











*代理権授与の性質*
【事例】Aが自分の土地の売買について、専門家のBに委任した。※ボタンをクリックすると図が変わります
【単独行為説や無名契約説】
Bへの授権行為は、内部の契約=委任契約とは別個の行為である。
【内部契約説】
Bへの授権行為は、内部契約=委任契約から直接発生する

*本人が内部契約を取消すとは*
【事例】 本人Aが代理人に代理権を授与したが、この代理権授与の意思表示が詐欺によるものであったため、Aがその後に内部契約(委任等)を 取消すと、代理権はどうなるか。

授権行為に瑕疵があり、代理人が内部契約を取消した場合
単独行為説のみが、代理権消滅を否定する。無名契約説と内部契約説では、理由付けが異なるものの、 内部契約は遡及的に消滅し、代理権は将来に向かって消滅するとする。
代理権の範囲は、原則として代理権授与行為に定まる。その範囲に争いがある場合は、委任状の文言や、代理人の地位などを考慮し、 代理権授与行為を解釈する。

理由付け
【(主に)無名契約説】第三者の保護のため、代理権の遡及効は否定する。
【(主に)単独行為説】相手方保護のため。
【内部契約説】(根拠)代理人は何らの義務を負わないので、遡及的に代理権を消滅させる必要はない


1-2 法定代理

法律の規定によって代理権が発生する法定代理の場合、その代理権の範囲は法律で定められている。 主なものは以下の表のとおり。
親権者・後見人子や被成年後見人のために必要な一切の財産管理行為をなす権原
財産管理人民法103条に定められた範囲
保佐人・補助人家庭裁判所の審判により決められた特定の法律行為についてのみ


1-3 代理権の範囲が不明確の場合

代理権の範囲が決められていないまたは不明確の場合、代理人がどこまで代理行為をなすことができるかについては、103条が定めている。
これらの行為は「管理行為」と呼ばれ、処分行為と対比されるが、 場合により、処分することも管理行為に含まれる。管理行為の具体例は以下のとおり。
「保存行為」期限の到来した債務の弁済、腐敗しやすい物の処分
「利用行為」物の賃貸、金銭の貸与など、収益を図る行為
「改良行為」家屋に水道等の設備を整えるなど、使用・交換価値を高める行為
103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
@
A
保存行為
代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為





2 代理権の特別の制限

2-1 自己契約および双方代理の禁止

双方代理当事者である本人と相手方の双方を一人の代理人が代理して契約を締結すること。
自己契約代理人が、本人を代理しつつ自分自身と契約を締結すること

これは、本人(双方代理の場合は当事者の一方)の利益が害されるおそれがあるために禁止される。

108条本文に反してされた代理行為は無権代理であり、本人は追認することもできる。
但書にもあるように、本条は任意規定である。
法定代理には、特別代理人の選任等の規定が定められている限りでは108条は適用されない。



108条の拡張解釈
形式的には108条本文に該当しない場合でも、真に利益相反行為であれば禁止すべき。 【判例】家主が借家人と賃貸借契約を結ぶ際に、将来紛争が生じた場合は、 借家人の代理人の選任を家主にゆだねるという委任契約を結ぶことは、108条の趣旨に反し無効(S7.6.6)

108条の縮小解釈 なお、形式的には108条本文に該当する場合でも、真に利益が相反しない場合などは本条違反とはならない



例外(108条但書き)
ただし、債務の履行については、自己契約・双方代理は認められる。債務の履行とは、履行期の到来した債務を履行することである。

108条但書きの拡張解釈
狭義の履行に属さない行為にも、新たな利害関係を生じない場合は、 108条但書きを拡張して適用すること。判例も、登記の申請や、構成証書の作成、株主の名義書換えなどについて、双方代理を認めている。






108条(自己契約及び双方代理)
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。 ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

*自己代理・双方代理*
ボタンを押すと図が変わります。
双方代理
自己契約


2-2 共同代理

同一事項について、、複数の代理人がいる場合であり、全ての代理人が共同して代理権を行使すべき拘束のあるものを共同代理という。
818条3項の、父母が共同して親権の行使をしなければいけないという規定がその例

この規定に違反してなされた代理行為は、権限外の無権代理となる。
広義の共同代理は、数人が本人のために代理行為をする場合であり、それぞれ単独で代理をすることができる ものも含む。復代理人と代理人との関係が、この例である。


3 代理権の濫用

代理人が、内心では、自己または第三者の利益を図るために、しかし客観的にはきちんとした形式をふんで 本来の権限内の行為をした場合を代理権濫用という。

★93条但書き類推適用説(判例)
相手方が代理人の真意を知り、または知ることができた場合は、本人は無効を主張できる。
(根拠)意思と表示の不一致を知る相手方を保護する必要はない、とする93条但書きと 同視できる。(批判)形式的には、代理人には意思と表示に不一致はない。

★信義則説(有力説)
相手方が悪意または重過失ある場合のみ、本人は無効を主張できる。

いづれの説も、代理権の濫用行為が原則有効という前提のもとで、本人の保護のための理論を構成しているが、 結果的には大差はないという指摘もある。


110条との関係
93条但書きが類推適用される場合も、相手方は110条の要件を主張・立証して法人の表見代理責任を追及できる(判例)

44条との関係
判例は、法人の代表者が、自己の利益を図る目的で法人を代理した場合も、93条但書きが類推適用されるとする。
【補則】相手は44条1項に基づき法人の不法行為責任を追及できる。



*代理権の濫用と判例の見解*
【事例】 本人Aが、不動産売買について代理人Bを選任し、Bは、Aのためにすることを示して、Cと取引をしようとしている(形式上は正当な代理行為)
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代理人Bの内心に、代金着服の意図
判例の考え方;心裡留保(93条)である
判例の結論;CがBの意図を知っていた、または知ることができたときは、 本人は無効を主張することができる。



4 代理権の消滅事由

111条の1項は代理権の消滅事由を、2項では、任意代理特有の代理権消滅事由が書かれている。
ただし、「本人の死亡」については、当事者に特段の合意があった場合や、委任による登記申請の代理であった場合は、代理権は消滅しない。
商行為において、商法に例外規定がある場合も同様である。
なお、本人の破産は、代理権消滅事由とされていないが、委任の終了事由となるので、 任意代理の場合は、結果的に代理権が消滅する。




111条(代理権の消滅事由)
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
@本人の死亡
A代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと
委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する



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