3.錯誤

1 錯誤とは

なんらかの誤解に基づいてなされた意思表示を錯誤という。以下、これについてみていく。

錯誤の分類
錯誤は、以下のように分類される。そしてこれは、意思表示の形成過程に即して考えることもできる
(動機)→@→効果意思→A →表示意思→B→表示行為

動機の錯誤 意思表示の動機が誤解に基づく場合(上記@)。近くに新駅ができると人伝いに聞いて土地を買った場合など。
内容の錯誤ある法律行為の内容についての錯誤(上記A)。 100ドルを100円と同価値だと誤解していたため、誤まった金額を提示してしまった場合など。 人違いに関する錯誤▽
表示の錯誤いい間違いや書き間違いなど、誤まった表示をしてしまう錯誤(上記B)。 100ドルと書くつもりが、誤まって100円と書いてしまったような場合等。
――――図解・判例・条文等――――

95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。 ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。


2 錯誤の成立要件

錯誤の成立要件は@要素に錯誤があったことと
A表意者に過失がないことである
要素とは、錯誤がなければ、表示はなかっただろうと考えられるほど重要な部分のことであり、 重過失とは、通常一般人に期待される注意を著しく欠いていたことをいう。


動機の錯誤
動機の錯誤は要素の錯誤とはならないか。

動機表示必要説(判例・通説)
動機の錯誤は、当然には95条の錯誤とはならないが、 動機を相手方に表示した場合には、動機は要素の錯誤となるとする。
(根拠)たしかに「動機」は、意思表示の成立につき重要な部分といえるが、あくまで、表意者の内心の問題であり、 外部に表示されないので、常に錯誤無効を認めると相手方に酷になってしまう。


共通錯誤
当事者双方が錯誤に陥っていた状態を共通錯誤という。 この場合、95条但書きは適用されず、表意者は重過失があっても無効を主張できるとされる。


3 錯誤無効

錯誤と認められると、表意者は無効を主張できる。この無効は当事者の無効主張を待って初めて生じるので 取消的無効と呼ばれ、90条のような当然無効とは区別される。
とはいえ、「取消し」そのものとは異なる。たとえば、取消権に関する126条の消滅時効の規定により、 錯誤無効の主張が当然に制限されるわけではない。 また、取消権に関する法定追認(125条)の規定や、相手方の催告権(19条)も適用・類推適用されない。


錯誤無効の主張の制限
表意者に重過失があって錯誤に陥った場合は、もはや錯誤無効は主張できない。
【補則】条文だと表意者のみ無効主張ができないととれるが、95条の趣旨からして 他の誰かが主張できるというわけではない。なお、重過失の立証・主張責任は相手方にある。


錯誤無効は誰が主張できるか

判例
95条は表意者の保護にあるという趣旨にのっとり、原則として、表意者のみが主張できる。 ただし、第三者に債権保全の必要があり、表意者も要素の錯誤を認めているときは、第三者も無効を主張することができる(判例)
  【参照】「債権編/債権の効力(責任財産の保全)」


第三者保護規定
なお、95条には第三者に関する保護規定がない。有力説は、詐欺に関する96条3項を類推適用して保護を図ろうとするが、 錯誤の規定に条文がないことを根拠に、錯誤者は善意の第三者にも無効を主張できるとする学説もある。


他の規定との関係

*和解との関係
当事者に錯誤があっても原則無効の主張は許されない。ただし、争いの前提であって、 争われなかった事項に錯誤があった場合は、無効の主張が許される。 また、交通事故の示談後、予期せぬ後遺症が発生した場合は、別損害として、改めて損害賠償を請求することができる。
*錯誤者の損害賠償義務の有無 契約が錯誤無効となり、相手方が損害を被った場合については、条文がない。 よって、契約締結上の過失の法理や、不法行為に基づいて賠償請求をするよりほかない。


















【債権者取消権】 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。 ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。(424条1項)


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