2.心理留保

表意者が、真意でないことを知りながら表示する意思表示を心裡留保という。 民法は、表示を信頼した相手方の保護のため、この意思表示を原則、有効とした。

但書きの規定
ただし、相手方が表意者の真意を知り(悪意)、または知ることができた場合(善意・有過失)は、意思表示は無効となる
相手方の悪意・有過失の主張・立証責任は本人にあるとされる。
代理人の心裡留保については、代理の箇所で述べる


この但書きの無効を、善意の第三者に主張することができるかについては、条文がないので問題となるが、 後にみる94条2項を類推適用して、第三者には主張できないとするのが通説である。
※通説では、第三者の過失の有無も問わないとする。

93条の適用範囲
――――図解・判例・条文等――――
第93条(心裡留保)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。 ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

心裡留保の事例
原則的な効果(Bが善意の場合)
例外;相手方が悪意もしくは有過失

3.虚偽表示


1 虚偽表示とは

相手方と通じて、真意でない意思表示をすることを虚偽表示という。 この場合の意思表示は、真意を欠くので原則として無効である。 例外として、善意の第三者に対しては、無効を主張することはできない。
  なお、虚偽表示を撤回するには、虚偽表示の外形を除去する必要がある(通説・最高裁)
――――図解・判例・条文等――――
94条(虚偽表示)
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

1-1 虚偽表示の成立要件

虚偽表示の成立要件は、@虚偽の意思表示があること、A相手方と通謀していること、である。

94条の適用範囲
相手方との通謀を要件とするので、相手方のある行為に限られる。よって、 単独行為であっても相手方のある行為(例:解除)については本条は成立するが、相手方のない合同行為については、判例は適用を否定する(学説は適用肯定派が有力)。

契約の成立に物の授受を要件とする要物契約について、物の授受がなくても、虚偽の意思表示に94条2項が適用されるかについては、 判例はこれを肯定する。
ただし、今日の判例では、相手方のない単独行為(共有持分権の放棄、財団法人設立時の寄附行為)についても本条の適用を肯定するものがみられる。
なお、身分行為については、本人の意思が尊重されるので、原則として本条の適用はないが、遺産分割や相続放棄のような財産行為 に関する行為の場合は、本条の適用があるとされる。



債権者取消権との関係
虚偽表示の適用においては、債権者の強制失効を逃れるためなどの財産隠しの手段として 用いられることが多いので、424条の債権者取消権と類似する点がある。
94条と424条の関係について、94条を優先して適用すべきだとする説と、どちらでも 原告は主張することができるとする説がある。


【事例】多額の借金を背負ったAが、債権者からの追及を免れるために、友人Bと通謀して、Aの土地を仮装売買した。 Bはさらにこれを、事情を知らない第三者Cに転売した。
原則A・B間の売買契約は無効(94条1項)
例外善意第三者Cの保護のため、AはCに、土地の返還を請求することができない(94条2項)


2 94条2項

2-1 94条2項について

94条2項では、虚偽表示の無効を善意の第三者には対抗できないとしている。この善意の第三者の範囲が論点となる。
善意の判定は、第三者が利害関係をもった時点。その後、虚偽だと知っても悪意とみなされることはない。


「善意」以外の要件
無過失・登記ともに不要
虚偽表示をした本人と善意の第三者を比べた場合、第三者をより強く保護してよいだろうという価値判断
無過失が不要であることについては、条文上に要求されていないことも根拠となる。判例もこの立場。
判例は、登記を不要とする根拠として、本人と第三者が対抗関係に立たないからだとする。



誰が「保護される善意の第三者」か
一般的に「第三者」といえば、虚偽表示の当事者や包括承継人以外の者をさすが、判例は、これを 「虚偽表示が創り出した外形について、新しい独立法律上の利害関係を持つに至った者」に限定している。

保護されない善意の第三者
*一番抵当権が仮装放棄され、順位が上昇したと誤信した二番抵当権者
*債権の仮装譲受人から、取立てのために債権を譲り受けた者→独立の利害関係人ではない
*代理人・法人の理事が虚偽表示をした場合の、本人や法人→新たな利害関係人ではない
*仮装譲受人の差押えをしていない単なる債権者(注;差押債権者は保護される)
*仮装譲渡された債権の債務者
*土地が仮装譲渡された場合の、土地上の建物の賃借人→事実上の利害関係にすぎない



善意第三者からの転得者が悪意である場合
絶対的効力説
(根拠)善意者で確定した権利を、転得者は承継するから
(批判)悪意者が善意者を「わら人形」として介在させる危険があり、その場合も保護されるのは疑問


相対的効力説
(根拠)悪意の転得者を保護する必要はない。
(批判)権利を失った転得者が、善意第三者に責任(561条)を追及できてしまう


この論点は、失踪宣告の取消しの項目でも問題となる


本人からの取得者と第三者の関係
善意第三者と本人からの譲受人との関係は、対抗関係であるかについて、学説は分かれる。
  【対抗関係肯定説】対抗要件の具備の先後で決める=第三者は対抗要件が必要(判例)
  【対抗関係否定説】両者は対抗関係になく、常に第三者が権利を取得


*94条2項の「第三者」*
不動産の仮装譲受人から、さらに譲り受けた者は〇
仮装譲受人の不動産に、抵当権(転抵当権)を設定した者は〇
一番抵当権が仮装放棄され、順位が上昇したと誤信した二番抵当権者は×
土地が仮装譲渡された場合の、土地上の建物の賃借人は×











*転得者とは*
【事例】AとBが、Aの不動産を仮装売買し、Bが善意のCにこれを転売した。Dは、AとBの仮装売買について周知のうえで、善意者Cから 不動産を買い取った。
この場合のDが転得者である。



2-2  94条2項の類推適用

94条のように、外観どおりの権利関係があると信じた者を保護する法理を、権利外観法理という。
  後にみる表見代理や、動産善意取得と並び、94条もその法理の表れである。

94条2項の類推適用というのは、相手方と通謀していない場合や、虚偽ではあるが意思表示がなかった場合など、 本来の94条適用事案ではないが、その外観を信頼した第三者を保護するために用いられる。
  不動産登記には、公信の原則が採用されていないので、この考え方は大きな意味をもつ

94条2項類推適用の要件
@虚偽の外観の存在 他人名義の放置
A本人の帰責性 虚偽の外観の存在・作出について本人が明示・黙示に承認
B第三者の善意 虚偽の外観を第三者が信頼したこと


本人の作出した外観以上の結果が生じた場合
権利者が許した外観以上の外形が勝手に作られ、その外観を第三者が信頼した場合は、94条2項に加え、110条も類推適用される。
110条も根拠となるので、第三者は善意では足りず、無過失まで要求される。
このような場合を「意思外形対応型」と呼び、通常の場合を「意思外形対応型」と区別する学説もある

未登記建物の所有者がその建物につき、家屋台帳上他人の所有名義で登録されていることを知りながらこれを明示または 黙示に町人していた場合、94条2項が類推適用される(S45.4.16)


【事例】Aの所有する土地の名義が、何らかの事情でB名義になってなってい。 Aはそのことを知りながらも、その状態を放置していた。そして、それらの事情を知らないCは、土地はBのものだと信じ、 Bから土地を買った。

この場合のCは、94条2項にいう第三者として、条文をそのまま適用することはできない。 なぜなら、事例では、A・B間に通謀の意思表示がないからである。
しかし、虚偽の外観(B名義の土地所有権)を放置したという責任がAにはある。 こういった場合、本来は94条2項の事例ではないにしても、94条2項を類推適用して、第三者を保護してあげよう、 というのが、94条2項類推適用の考え方である。


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