|
1 時効制度の意義 一定の事実状態が法に定められた期間継続することで、法律関係が変動する制度を時効という。 時効は、権利取得を効果とする取得時効と、権利の消滅を効果とする 消滅時効の2種類がある。 時効制度の存在理由
時効制度の存在理由は以下の3つが挙げられている。
@社会の法律関係の安定のため 長年継続した事実状態を尊重し、権利関係を事実に合わせることで、社会の秩序・法律関係の安定を図る。 A立証の困難性を救済する必要性 長期間の経過によって、真実の権利関係を証明することが難しくなるだろうから、それを救済する必要がある。 B権利の上に眠る者は保護に値しない 権利を有する者が、権利を行使しなかった場合、もはや保護するに値せず、 不安定な立場にある義務者を義務から解放してあげる必要がある。 時効観
上記のように、時効の存在理由について異なる考え方が現れるのは、時効に対する見方が以下のように違うからである。 ☆実体法説
時効を権利・義務の発生・消滅という実体法上の制度ととらえる。
これは、事実状態と真の権利関係の不一致を前提としている(上記理由@・B)
☆訴訟法説
時効は、訴訟法上の制度であり、援用は、時効による法律関係の変動の証拠を裁判所に提出する行為であるとする。
事実状態と真の権利関係が一致していることを前提としている(上記理由A)
|
2 時効の援用と放棄 時効の利益を受ける者が、時効の利益を受けようとする意思表示を、時効の援用という。 2-1 時効の援用の性質
145条がある一方で、民法は、時効の完成によって、権利が取得され、また消滅すると規定している(162条・167条)。
よって、時効の効果がいつ発生するかについて、学説が分かれている。 ★不確定効果説(援用時説)
時効が援用されるまでは、時効の効果は確定的に発生しない
不確定効果説は、民事訴訟法の、弁論主義(当事者が主張しない事実を裁判の基礎としてはいけない)からの帰結といえる。 【判例】145条及び146条は、時効による権利消滅の効果は、当事者の意思をも顧慮して生じさせることとしている
ことが明らかである(S61.3.17)★確定効果説(完成時説)
時効の完成だけで、時効の効果は確定的に発生する
訴訟法説は、民法145条を良心規定と解する。つまり時効の利益を受けるか受けないかは、当事者の良心に委ねられているとする。 |
|
2-2 時効の援用権者 時効を援用することができる者については、判例は「時効により直接利益を受ける者」としている。なお、学説は、 間接的に利益を受ける者も広く含まれるべきだとしている。 [取得時効] 取得時効者以外の第三者の援用権を認める必要はあまりないとする 【判例】
A所有の土地をBが時効取得した場合に、Bから土地上のB所有の建物を賃貸するCは、Bの取得時効を援用することはできない(S44.7.15)
○ 保証人(T4.7.13)・連帯保証人(439条/S7.6.21)
○ 物上保証人(最高裁は判例を変更し、この者にも援用権を認めた/S42.10.27) ○ AのためにBが抵当権を設定した不動産を取得した、第三取得者C(S60.11.26) ○ 売買予約の仮登記がされている不動産の第三取得者 予約完結権の消滅時効の行使につき肯定/H4.3.19○ 売買予約の仮登記に遅れる抵当権者(H2.6.5) ○ 詐害行為の受益者 詐害行為取消権者の債権につき肯定/H10.6.22○ 譲渡担保の目的不動産を弁済期後に取得した第三者 清算金請求権につき肯定/H11.2.26× 後順位抵当権者 先順位抵当権者の被担保債権につき否定/H11.10.21× 表見相続人から相続財産を譲受けた者 相続回復請求権の時効につき否定/S4.4.2 |
2-3 時効援用の方法と効果 援用の方法
時効の援用は、裁判外でもよいとするのが判例(T10.12.24)・通説であるが、裁判外で行使したことを裁判所でも主張・立証する必要がある。
裁判上での時効の援用は、事実審の口頭弁論終結時までにすればよい(T12.3.26)。
なお、債権者が時効を援用しないまま敗訴判決が確定した後、別訴で債権の時効取得を主張することはできない(S14.3.29)援用の効果
この時効援用の効果は相対効であり、複数の援用権者がいるときも、原則、援用した者にのみ効果が生じる。
債務者Aへの債権が消滅時効にかかった場合、債務者Bだけでなく保証人Cもこれを援用でき、Cが援用した場合は、その効力は
Cにのみ及ぶ(=AはBに対しては債権の履行を請求できる) 債権者Lの債務者Mが死亡し、XとYがその債務を相続した場合で、Yのみが債権の消滅時効を援用した場合、
その効力は、Xには及ばない。よって、債権者Lは、Xに対して、その相続分に応じた履行の請求ができる
|
2-4 時効の利益の放棄
時効の利益は、時効完成前に放棄することはできない。言いかえれば、時効完成後は放棄できる(146条反対解釈)。
時効完成前に時効の利益を放棄することのできない理由は、債権者が債務者に対し特約などで時効利益の放棄をおしつける可能性が
あるからである。 時効完成後の時効利益の放棄は、法律行為であり、権利の処分に該当するので、156条の適用はなく、処分の能力または権限を必要とするのが
判例(T8.5.12)・多数説である。また、その効力は相対効であるとされる。 時効利益の放棄は相手方のある単独行為(形成権)である(T8.7.4)時効完成を知らずに債務を承認した場合
時効完成後に債務を承認した場合、黙示の時効の放棄と考えられるが、時効の完成を知らずに債務を承認した場合まで、
時効の援用権を喪失するのかが問題となる。
【判例】債務者は時効の完成を知った上でその利益を放棄したわけではないから、時効利益の放棄とはならないが、 一度支払の意思表示を示した以上、信義則からみて、それと矛盾する時効の援用をすることはできない(S41.4.20) |
|