3.行為能力

1 行為能力とは

単独で、確定的に有効な意思表示をなしうる能力を、行為能力という。この行為能力が低い者について、 民法は4類型に分けて保護を図っている。
なお、制限行為能力者については、親族編でさらに詳しく規定されている。これについては、後述する。


2 制限行為能力者制度

2-1 未成年者

20才未満の者を未成年者という(4条)。未成年者が法律行為をするには、 原則、法定代理人の同意が必要だが、その例外を、5条と6条が定めている。
  同意は事前になされる必要があり、事後の同意は追認となる。黙示・明示を問わない。

例外;未成年者が単独でできる行為
@ 単に権利を得たり、義務を免れる行為(5条1項)
負担のない贈与を受ける。債務の免除を受ける契約を締結。無償の受託者が受託物を返還する行為。
  選択債権について第三者として選択する。
A 法定代理人が目的を定め、又は定めないで処分を許した財産の処分(5条)
B 法定代理人に許された営業に関する行為(6条1項)
C 未成年者が婚姻をした場合(753条)。これを成年擬制という。
D 未成年者が単独でした行為について、自ら取消すこと

これらの行為は、未成年者も単独ですることができるので、取消す余地はなくなる。


同意を要する行為
売買、賃貸借、雇用などの契約、相続の承認・放棄、時効中断の効力を生じる債務の承認、負担付の贈与を受ける 、債務の弁済を受けるなど、左記以外の法律行為。


法定代理人
未成年者の保護者であり、原則は親権者、いなければ未成年後見人がなる。法定代理人の権能は、以下のとおり。
@代理権 未成年の代わりに法律行為をすることができる
A同意権 未成年者が法律行為をするときに同意をする権利
B取消権 未成年者が単独でした行為を取消すことができる。
――――図解・判例・条文等――――










5条(未成年者の法律行為)
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。 ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、 その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

6条(未成年者の営業の許可)
一種又は数種の営業を許された未成年者は、 その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、 第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。


2-2 成年被後見人

精神上の障害により、事理弁識能力を欠く常況にあって、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者を、成年被後見人という(7条)。 この者は、原則、自ら法律行為をすることはできないが、 日用品の購入その他日常生活に関する行為は、単独ですることができる(9条)。 取消しも単独で可。
「能力を欠く常況」とは、通常の状態で意思能力がないことを意味し、ときどき意思能力を回復する場合も含まれる

後見開始の審判には、7条に掲げられた者からの請求が必要になる(7条)。主観的・形式的要件が整ったとき、裁判所は 後見開始の審判をしなければならない。


成年後見人
家裁の職権で選任される、成年被後見人の保護者(8条)。権能は以下のとおり。
@代理権 成年被後見人の法律行為について、広範な範囲を代理できる
A取消権 成年被後見人がした法律行為を、取消すことができる。

成年後見人には、同意権はない


7条(後見開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、 本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、 後見開始の審判をすることができる。

9条(成年被後見人の法律行為)
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。 ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。


2-3 被保佐人

精神上の障害により、事理弁識能力が著しく不十分であって、家庭裁判所の保佐開始の審判を受けた者を、被保佐人という(11条)。 原則として、単独で法律行為をすることができるが、 13条1項列挙の行為については保佐人の同意が必要である。

保佐人の同意を要する行為、要しない行為
13条1項に挙げられているものは以下のとおり。

@元本を領収し、又は利用すること。
貸金の返済を受けることには同意必要、利息や賃料の受領には同意不要
A借財又は保証をすること。
時効完成後の債務の承認・約束手形の振出しは同意が必要、時効中断の効力を生じる債務の承認は同意不要
B不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
特許権・著作権・株式の得喪や、土地賃貸借契約の合意解除などは同意が必要
C訴訟行為をすること
応訴や送達を受ける行為は含まれない(=同意不要)
D贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法2条1項に規定する仲裁合意)をすること。
E相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
限定承認や(法定)単純承認にも同意は必要(通説)
F贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
G新築、改築、増築又は大修繕をすること。
H602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
短期賃貸借の期間を超える部分のみで取消可(通説)

13条以外の法律行為についても、一定の者の請求で、保佐人の同意を要する旨の審判をすることができる。


保佐人
被保佐人の保護者である(12条)。権能は以下のとおり。
@代理権 審判によって付与された場合のみ(876条の4)
A同意権 被保佐人が13条1項の法律行為をするときに同意をする権利
B取消権 被保佐人が単独でした13条1項の行為を取消す権利



2-4 被補助人

精神上の障害により、事理弁識能力が不十分であって、 家庭裁判所の 補助開始の審判を受けたものを被補助人という(16条)。 原則として、単独で法律行為をすることができるが、 一定の者の請求によって、補助人に同意権付与の審判がなされた法律行為については、 補助人の同意がなければ単独で法律行為をすることはできない。
この同意権が付与される行為は、13条1項に定める行為の一部に限られる(17条1項)。
被補助人以外の者が、補助人付与の請求や、同意権付与の請求をする場合は、、被補助人の同意が必要である

補助人
被補助人の保護者である。権能は以下のとおり。
@代理権   原則、代理権はもたないが、一定の者の請求のもと家庭裁判所の審判によって付与される場合がある(876条の9)。
A同意権  原則、同意権はもたないが、一定の者の請求のもと、13条1項に掲げられた行為の範囲内で、家庭裁判所の審判によって付与される。
B取消権  同意を要する行為を、被補助人が単独でした場合、取消すことができる。



13条(保佐人の同意を要する行為等)
被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。 ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
  @〜H 左記参照
家庭裁判所は、11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、 被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。 ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
保佐人の同意を得なければならない行為について、 保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
元本とは「利息や賃料などの法定果実を生じさせるもの」

602条(短期賃貸借)
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、 それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
 一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年
 二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年
 三 建物の賃貸借 三年
 四 動産の賃貸借 六箇月





*後見・保佐・補助開始審判の相互の関係(19条) ・後見開始の審判をする場合において、本人が被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、その本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならない。
・前項の規定は、保佐開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被補助人であるとき、又は補助開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被保佐人であるときについて準用する。


3 制限行為能力者の相手方の保護

制限行為能力者を保護すると同時に、取引の相手も保護する必要がある。民法は以下のような規定を設けて、その調和を図っている。
第三者の保護規定はないため、制限行為能力者とその相手方の取引を信頼して、 さらに取引に入った者は、その後に法律行為が取消された場合も原則として保護されない。例外として、192条の即時取得の保護の可能性はある。


3-1 催告権

制限能力者の相手方は、制限行為能力者や、その法定代理人・保佐人・補助人に対し、 行為を取消すかどうかについて確たる返答を求めることができる。

催告したにもかかわらず、返事がなかった場合の処理
@単独で追認できる者への催告に対し、返事がなかった場合は、追認擬制
・能力者となった者への催告
未成年者や成年被後見人は、催告を受ける能力をもたない(98条の2)ので、これらの者への催告は無効として、追認擬制も、取消擬制も生じない(通説)。
・法定代理人、保佐人、補助人への催告
A上記以外の者への催告に対し、返事がなかった場合は、取消擬制
・能力を回復しない被保佐人、被補助人
B特別の方式については、取消擬制である。


3-2 制限行為能力者の詐術

制限行為能力者が、自分が行為能力者であると相手に誤信させるための詐術を用いたときは、制限行為能力者は、取消権を失う。

詐術の意義【判例の見解】

「無能力者(制限行為能力者 )が、無能力者であることを黙秘していた場合でも、他の言動とあいまって、 相手方を誤信させ、または誤信を強めたとき」は詐術にあたるが、「単に無能力者であることを黙秘しただけでは詐術に当たらない」


3-3 法定追認

これについては、後の「無効・取消・追認」で触れるが、125条規定の行為を行った場合は、 追認擬制が生じるという制度である。



3-4 取消権の短期消滅時効

これについては、後の「無効・取消・追認」で触れるが、5年間で取消権が消滅するという制度である。


21条(制限行為能力者の詐術
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。

*制限行為能力者の詐術とは*
【事例】未成年者Aが、Bと取引をしようとしている。
※ボタンをクリックすると図が変わります
積極的な詐術
Aが、能力者であることをBに信じさせるような積極的な手段を用いること

黙秘+他の言動
制限行為能力者であることは黙秘しつつ、行為能力者であるかのようにふるまうこと

ただの黙秘
制限行為能力者であることを、ただ黙秘していた場合


民法総則のメニューに戻る |  トップページをここに表示


inserted by FC2 system